Christmas of Heaven

 

 

「絶対にいやだ〜!!」
今日も平和なベルリバティスクールに絶叫が響く。
発生場所は学生会室。
発生者は言わずと知れたBL学園のアイドル伊藤啓太。
「どうして俺が女装しなくちゃいけないんですか!?」
啓太がキャンキャン吠えている相手はBL学園の学生会長・丹羽哲也と副会長・中嶋英明。
「どうしてといわれてもな〜理事長命令だし…」
ぽりぽりと頭をかく丹羽の言葉に啓太はピクリと反応する。
「理事長〜?」
「ああ、理事長から今年のクリスマスは聖鈴百合学園と合同でパーティーを行うから面白い企画を立ててくれとな」
「それと俺の女装は関係あるのですか?」
「ああ、聖鈴百合学園の理事長がお互いの学園で一番人気のある生徒をそれぞれ女装・男装させようと意見したらしいんだ。理事長殿は我が学園のことをよ〜くご存じだから即答したらしいぞ」
にやりと笑っている中嶋に啓太はフツフツと怒りが沸いてきたようで顔を真っ赤にさせている。
「理事長に直訴してやる〜!!」
勢い良く出て行こうとした啓太に中嶋の言葉がぶち当たる。
「あ、理事長は今から出張らしいぞ」
「なんですって!?昨日はそんな事言ってなかったぞ〜!」
怒り狂っていると表現してもおかしくない啓太の様子を丹羽と中嶋は面白そうに見ている。
「理事長殿のことだ。きっと伊藤に似合うドレスを作ってくれるさ」
「もう、決定という事ですか?」
「まあ、そう言う事だな。本当なら人気投票をして決めるべきだが、先日の役員会議で無意味だろうと判断が下った」
「どうしてですか?」
「皆が口を揃えて『伊藤啓太以外に誰がいる?』といったからだ」
啓太はふらりとよろける。
「安心しろ、啓太」
「?」
「今回のパーティーは仮装パーティーだ。俺もヒデも仮装するからな」
「でも、女装じゃないんでしょ?」
「あのな、啓太。俺やヒデが女装しても気味悪いだけだろうが…」
「………………………」
一瞬想像した啓太は硬直してしまった。
「郁ちゃんは絶対に女装はしてくれないからな。あの顔にコンプレックスを持っているから」
はぁとわざとらしくため息をつく丹羽に啓太は覚悟を聞けて
「わかりましたよ。その代わり条件付ですよ」
「遠藤なら最初からお前のナイト役だぞ」
「なっ、和希のことを聞いてるんじゃないです!!」
顔を真っ赤にさせる啓太をからかうように丹羽と中嶋は笑う。
「もう!仮装パーティーということは王様や中嶋さんも仮装するってことですよね」
「ああ、そういうことになるな」
丹羽の答えに啓太はにやりと笑い
「じゃあ、お二人にも俺のリクエストの衣装を着てくださいね♪もちろん、恥ずかしい服じゃないですから安心してください」
「伊藤も言うようになったな…だが、変な格好じゃなければいいぞ」
「あ、大丈夫です。王様は軍服。あ、軍服は日本式にしてくださいね。出きれば白い軍服がいいな。それから中嶋さんは魔王の仮装をしてください♪」
ニッコリ微笑む啓太に二人はあっけに取られた。
もっと無理難題の仮装をさせられると思ったからだ。
「妹から頼まれていたのでどうやって頼もうかと思ったけどちょうど良かった」
「チョイ待て、妹に頼まれたって…」
「ああ、学園祭に来た時に実際に会ってみてそんなイメージが浮かんだから機会があったら写真送ってね♪って頼まれていたんですよ」
ニコニコと微笑んでいる啓太に二人は互いに顔を見合わせて軽いため息をついたとか。


‐数日後・和希の自室‐
「お・か・え・り〜」
「うわっ」
和希は部屋に入るなり仁王立ちしている啓太に出迎えられた。
ちなみに今は午前2時。
誰もが眠っている時間である。
そう、普段の啓太ならとっくに夢の世界に行っている時間である。
和希は思わず持っていた書類の入った鞄を落しそうになった。
「え、啓太?」
「ずいぶん急な出張だったんだね〜」
あからさまに拗ねていますといっているような口調の啓太に和希はかすかに笑みを浮かべる。
「ああ、啓太に伝えようとしたんだが飛行機の時間に間に合いそうに無かったからな…すまなかった」
「別に出張の事でとやかく言うつもりはないよ。俺だって和希の立場ってものを知っているかなら」
むすっとしたまま呟く啓太に和希は首を傾げる。
「じゃあ、なんで怒っているんだ?」
「X'masパーティーのことだよ」
「え?」
「聖鈴百合学園との合同パーティーのこと!なんで俺が女装されると知っていながらあんな約束したんだよ!!」
「女装?啓太が?なんで?」
「なんでって…和希は承認したって王様達が言っていたよ。聖鈴百合学園の理事長が提案した企画でそれぞれの学園の一番人気の生徒にそれぞれ女装・男装をさせるって…」
「なんだそれ!?」
啓太の言葉に和希は素っ頓狂な声をあげる。
ちなみにどんな大声を出してもどの部屋も防音がばっちりしてあるので隣の部屋の人に迷惑をかけることはない。
「俺が承認したのは仮装パーティーだけだぞ。だれが啓太を女装させるか!」
「え?じゃあ、各学園の一番の人気者っていうのは嘘?」
「俺は承認してないが…企画運営は学生会だからな…王様や中嶋さんがそう啓太に告げたとなると…学生会が企画したものだな」
「ええ!?」
「理事長の名を出せば啓太が簡単に引き受けると思ったんだろう」
「悔しいな〜なあ、和希ももちろんパーティーに参加するよな?」
「ああ、学生として」
「もちろん、俺のパートナーだよな?」
「当たり前じゃないか!エスコート役はしっかり王様達に取りつけ…あっ」
慌てて口に手を当てる和希。
啓太はじろりと和希を睨み
「やっぱり、和希も承認していたんだな!俺が女装させられる事!!」
「…………ごめん。だが、提案したのは聖鈴百合学園の理事長…お前の叔母さんだよ」
今にも物を投げてきそうな啓太に慌てて言い訳をする和希。
「百合姉が?」
「ああ、ついこの間、啓太が学園内で人気があるって言ってしまったんだよ」
「それと女装となんの関係があるんだよ!」
「……………」
「和希?」
青筋を立てている啓太に和希は降参の白旗を上げた。
「この間の学園祭で啓太、舞台で女装しただろう?」
「ああ、あの劇…」
「その話をしたら『私は見ていない!!けーちゃんの女装姿みたい!!』って騒ぎ出してさ…」
「それで、X'masパーティーで俺が女装するって事になったのか!?」
「まあ、そう言う事だ…多分」
「つまりは、百合姉のわがまま?」
「簡単に言えばそう」
「俺、パーティー参加するの止めようかな…」
ポツリと呟いた啓太の言葉に和希は慌てる。
「女装・男装のお披露目は最初の一時だけだから…それに、お披露目が終わったら速攻会場から連れ出すから…お願いだ、参加拒否だけは止めてくれ!俺が聖鈴百合学園の理事長に後で何を言われるか分かったもんじゃない!」
「……和希は自分の事だけ考えているのか?」
「違う!あの人の事だからきっと啓太のところにも行くはずだ」
「何が?」
「脅迫メール」
「………………分かった。参加はするけど、お披露目が終わったら速攻脱ぐからな!」
むすっとしたままの啓太だが、和希はホッと胸をなでおろした。
「最初のお披露目の後にこっそり二人で抜け出す手順は決めてあるからな。そしたら、二人っきりでX'masを楽しもうな」
ニコニコ顔の和希に啓太は頬を赤く染めて小さく頷く。


そして、当日
「きゃ〜vvけーちゃん、可愛い〜vv」
奇声を上げているのは聖鈴百合学園の事理長・鈴菱百合。
啓太が苦手としている実の叔母である。
本日のお披露目衣装をまとっている啓太を思いっきり抱きしめてのこの言葉である。
そばにいるエスコート役の和希は額に青筋を浮かべ、引き攣った笑顔で
「啓太は学園一の人気者ですからね。啓太の女装姿を見て失神した人数も半端じゃないですよ」
「けーちゃんは、お義姉さんに似て美人さんだから当然よ!」
胸を張って威張る百合。
「へ〜、啓太のお母さんって美人なんだ…一度お会いしたいものだ」
ニヤニヤ顔の和希にわき腹を啓太は軽く肘で叩く。
「それにしても、よく、けーちゃんに似合う服を見つけたわね」
「あ、これは…」
「俺が作ったんですから当たり前ですよ」
「え?」
今日の啓太の衣装は花嫁をモチーフにした真っ白な衣装である。
ただし、レースなどは使用せずにシンプルな花嫁衣裳といった感じのドレスである。
和希としてはフリルをふんだんに使ったドレスを手芸部の先輩達と考えていたのだが、啓太に猛反対され、しまいには「そんなドレスを着るくらいなら死んだほうがましだ!!」と大泣きされたのでシンプルなドレスになったのであった。
「本番でも着れるようにねv」
ニッコリ笑顔の和希に啓太は顔を赤くし、百合は青筋を立てる。
「フン、男同士でどうやって…」
「この啓太が男に見えます?」
「うっ!」
今日はロングストレートのかつらをかぶっている啓太は何処から見ても女の子に見える。
「大丈夫!裏工作なら得意だからねv優秀な人材がウチには揃っているし…」
ニコニコ顔の和希に啓太は軽いため息をつく。
もう、諦めモードに入っているようだ。
「なあ、和希。そろそろ時間だぞ」
シンプルな腕時計を示しながら啓太が促すと和希は笑顔のまま啓太の腰を引き寄せる。
ちなみにこの腕時計、女物である。
啓太はいつも愛用している男物の時計をはめていたが周りからブーイングが起きたためにたまたま(?)和希が持っていた女物の時計をはめているのである。
もちろん、その時一悶着があったが和希の『女装しているの男物はまずいだろう。だからドレスに合う時計を探して持ってきた』という言葉でその場は収まったのであった。啓太は不満だったが…

「聖鈴百合学園理事長様、挨拶をお願いしますね」
ニッコリ笑顔の和希の言葉に百合は顔をしかめる。
「ベルリバティスクールの理事長さんの挨拶は?」
「本日我が校の理事長殿は急なお仕事でキャンセルされました。理事長もとっても楽しみにしていらしたそうですが…本当に残念です」
「あら、そう。最初ッから参加するつもりなんてなかったのかもしれないわね」
むすっとした表情の百合だが啓太が瞳を潤ませてじっと見つめているのに気付くと
「はぁ、昔からけーちゃんの涙には私達一族は弱かったのよね…分かったわよ。じゃあ、伝えて、新年の鈴菱の新年会覚悟しておいてと」
「わかりました。しっかりと伝えましょう。私達が理事長と会えましたら…」
和希の返事に百合はそれ以上は反論しなかった。
生徒たちが百合を呼びにきたからである。

クリスマスパーティーの司会はそれぞれの学校の学生会会長が執り行う事はこのクリスマスパーティーが決定した時点で決まっていた。
「さて!本日のメインイベント!!各校の人気者に登場してもらおう!」
丹羽の元気な声に会場が歓喜の声にあふれる。
「まずは、聖鈴百合学園一の男装の麗人・渡利佳織さん!」
渡利佳織の登場で女生徒達から黄色い声援が飛び、男子生徒からは熱い視線が送られている。
渡利佳織は中性的な雰囲気をかもし出している。
長い髪を一つにまとめ中世ヨーロッパの貴族の服をビシッと着こなしているあたり宝塚の男役を思わせる。
「続いてはベルリバティ一のアイドル・伊藤啓太君!」
和希にエスコートされて会場に足を踏み入れた啓太に男子生徒全員が感嘆のため息をついた。
今まで佳織の登場で騒いでいた女生徒たちは和希と啓太のツーショットに悲鳴を上げた。
その悲鳴に啓太は一瞬驚いて足を止めようとしたが和希に促され、用意された舞台まで足を進めた。
和希は舞台に上がる前にすっと啓太の側を離れ、舞台脇で待機している。
その動作に女生徒たちがこそこそと何やら嬉しそうに囁きあっている。
和希はそんな彼女達にニッコリ笑みを浮かべ啓太には更なる笑みを送った。
舞台に上がった啓太は和希の笑顔に顔を真っ赤にさせている。
「うわ〜女の私から見ても伊藤君は可愛いですね〜。ところで、その腕に抱いているクマのぬいぐるみは?」
聖鈴百合学園の学生会長からの質問に啓太はニッコリ微笑んで
「理事長代理です。本日は我が校の理事長が参加できないので変わりに理事長代理を参加させて欲しいとおっしゃったのでお連れしたのです。ねえ?くまちゃん」
『そのとおり!!ボクはドタキャンをしてしまった理事長の変わりにパーティーに参加するよう理事長に頼まれてきたんだよ。理事長からの伝言を伝えるね。【聖鈴百合学園の皆さん、ベルリバティスクールの諸君、ドタキャンをして申し訳ない。だが、私の分まで楽しんで欲しい。今宵ステキなパーティーを…メリークリスマス!】以上!』
「ありがとう、くまちゃん」
「ベルリバティスクールの理事長はとてもユニークな方なのですね」
「謎の理事長様ですからね。我が学園で理事長のお姿を拝見したのはこの伊藤啓太君だけですからね」
チラリと和希のほうをみて丹羽が言うと和希は平然とした顔で会場内を見回していた。
「さて、そろそろ皆さんの気持ちもお食事のほうに移っているようなのでフリータイムにしましょう!二校の交流が深まるといいですね」
「そうだな。食事に専念するのも良し、気になる異性に話しかけるのもよし、今宵は無礼講となっているから思う存分楽しもう!」
「では、我が校のプリンスからベルリバティスクールのプリンセスへのキスを合図にフリータイムとしましょう」
聖鈴百合学園学生会長の言葉に和希をはじめ丹羽、中嶋など啓太を溺愛している人々から驚きの声が上がる。
「ちょっと、俺はそんな話聞いてねえぞ」
「え?でも我が校の理事長からそのように伺っておりますが?」
丹羽たちの剣幕に驚く聖鈴百合学園学生会長。
「冗談じゃない!啓太は誰にも触れさせない!」
いきなり舞台に上がった和希は啓太を引き寄せると頬にキスした。
和希の行動に女生徒たちは黄色い奇声を上げ、一部の男子生徒は手にしていたグラスを落しそうになった。
騒然としている会場から和希は啓太をお姫様抱っこをして脱走した。
再び女生徒達から黄色い歓声があがり、会場は大いなる盛り上がりを上げていた。
啓太を溺愛している数名を除いては…


‐会場の中庭‐
「和希〜恥ずかしいから降ろして〜」
白い息を吐きながら和希に懇願する啓太だが和希は啓太を降ろそうとしない。
「もう少しだから我慢しろ。それにその靴だと歩きにくいだろう?」
「………」
啓太はドレスに合わせてヒールの高い靴をはいている。
もちろん和希がオーダーメイドした特性のヒールだ。
だから、先ほども和希が啓太をエスコートしていたのである。
啓太一人では上手く歩けないから…
和希が向かったのはクリスマスパーティーが開かれているホテルの敷地内にある小さな教会だった。
教会の中はろうそくの火が灯り、幻想的な雰囲気を演出している。
「教会?」
「ああ」
「どうしてここに?」
「この教会には言い伝えがあるんだ」
「言い伝え?」
「この教会で愛を誓い合うと永遠に離れる事がないという言い伝えがな」
「え?」
「実際この教会で結婚式を上げたカップルで分かれたカップルは一組もいない。結婚式シーズンはいつもこの教会は予約で一杯になるんだ」
教会に飾られている十字架をじっと見つめる和希の横顔を見ながら啓太は胸の高まりを押さえる事ができない。
「啓太」
「ん?」
「愛しているよ」
そっと触れるようなキスを啓太に送る和希。
啓太は嬉しそうにそのキスを受けとめる。
「俺も愛している。ずっとずっと和希だけを」
和希だけに聞こえるように囁く愛の言葉に和希は満面の笑顔で啓太を抱きしめる。
「俺も啓太が側にてくれるだけでいい。ずっとそばにいて欲しい」
「うん」
そして再び降りてくる和希のキスを啓太は幸せそうな笑顔で受けとめる。
恋人達のクリスマスはこれから…
二人を祝福するかのように、チャペルの外では雪が舞い降りてきていた。

 

(c)紫藤 晄

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