「本当に無いんだよ」
「それじゃ俺が困るの!」

制服が夏仕様に変わった日の昼休み。啓太は和希の言葉に頬を膨らませていた。

あなたが私にくれたもの

すぐ目前まで迫った和希の誕生日。実際の年齢は隠していても誕生日だけは教えていた和希は、啓太の「和希の欲しいもの」に対する質問攻めにあっていた。

「だって、本当に無いんだからしょうがないだろ?」
「だからぁ、日用雑貨とかでもいいって。なんか一つくらい教えてくれても良いだろ?」
「・・・いや、だからね。啓太・・・」

繰り返される同じ質問。同じ回答。回数を重ねる毎に不機嫌になって行く啓太の表情を、ため息をつきながら和希は眺めていた。

「・・・じゃあ、今日の放課後、駅前まで付き合ってくれるか?」

口を尖らせながら上目遣いで、啓太は和希にお伺いをたてる。そんな恋人の申し出と仕事など、和希には比べる事も無い物だったので、「勿論」と笑顔で了承した。

「・・・でも、俺の欲しい物、知ろうと思っても無駄だよ。本当に無いから」
・・・・啓太以外はね。

心の中で呟いた和希の言葉が啓太に聞こえるわけも無く、事の真意を突かれた啓太は更に頬を膨らませた。

「・・・・俺も買いたい物あるの!じゃあ放課後なっ!」

食べ終えた食器の乗っているトレーを片手に、啓太は一人で勢いよく席を立った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

約束の放課後。私服に着替えた啓太は和希を伴って学園島を出発し、賑やかな繁華街を歩き回った。

まずはメンズのブティック。シンプルなデザインを主に取り扱っている、二人の共通のお気に入りの店だった。啓太は自分のシャツを選ぶ振りをして、視界の端で和希を観察する。すると和希が一枚のシャツを手に取っているのが目に入った。
すかさず和希の隣に移動する。

「それ、和希の好み?」

にこやかに問いかける啓太に、和希も笑顔で答える。

「あ、うん。啓太に着せたいなーって思って・・・」
「・・・・俺?」
「うん。啓太、こういうの似合うとおもうぞ」
「・・・・・・そうかもね」

満面の笑みで話しかけてくる和希に、口の端を引きつらせながら啓太は答えた。

(ここは駄目だ!!俺のばっかり選び始める!)

次に訪れたのは雑貨をメインに取り扱っている店。たまに和希の机の中に煙草が入っているのを見ていた啓太は、ライターの売り場を見て回っていた。

「和希、これかっこよくない?」

一つのライターを指差して、啓太は和希に話しかけた。

「・・・うん。啓太もこういうのが好み?」
「あ、うん。いいと思うけど」
「趣味が似てるってうれしいな」
「・・・そうか?」
「お揃いで持ってくれる?」
「・・・・・・これ使ってるのか?和希」
「・・・・ごめん」

啓太の落胆を感じ、思わず和希は謝った。そしてその謝罪の言葉に啓太は慌てた。そんな事では和希を喜ばせようとしている事自体が失敗してしまうと。

「謝らなくてもいいけどさ。・・・ついでに家の親父の父の日のプレゼント、見てもいい?」
「うん。・・・俺も選んでやるよ。何といっても啓太の親父さんだからな」
「・・?うん。ありがと」

二人の間の空気は和んだが、本来の目的を達成する事の出来なかった啓太は再び大きく息を吐いた。

(なんでこいつ、何でも持っているんだよ・・・)

次に訪れたのはCDショップだった。啓太はいつも自分が聞いているバンドの新譜が出ているのをポスターで見かけてそのコーナーへと足を向けた。その啓太の後を和希は付いて行く。

「・・・和希は見る物無いの?」

一向に和希が自分からはなれる気配のない事に気が付いた啓太は、本来の目的を達成すべく和希に問いかけた。

「啓太の聞く物が知りたいだけで、俺は別に無い」
「・・・・(また俺あわせか・・・)」

町中をいくら歩いても、和希の欲しい物が見つからない。啓太の焦りを無視するかのように時間だけが過ぎて行った。
店の中から外を眺めると、そこは既に夜の帳に包まれはじめていた。

「なあ啓太。もうこんな時間だからそろそろ飯食って帰ろうぜ」
「・・・・うん。そうだね」

落胆に項垂れて歩き出す啓太に、和希は努めて明るく話しかけながら帰途についた。

食事を終え、学園へ戻るバスに乗り込む直前になって和希は「あ、俺買いたい物あった」と啓太に告げた。

「悪いけどちょっとそこで待っててくれるか?」

和希の欲しい物が見つけられるという段になって、啓太がそれを素直に聞くわけも無い。あくまでも「一緒に行く」と言う啓太に、和希は頬をぱりぱりとかきながら気まずそうに承諾した。
ついた先は薬局であった。

「なに?和希体調悪いのか?」
「いや、すこぶる良過ぎて困るくらい」
「 ? 」

和希の台詞の意図する所が分からずに、啓太は和希の後をついて行った。
和希は薬局の中のあるコーナーで立ち止まった。

「・・・・・!!」

にやりと不適な笑みを浮かべて和希は啓太に言った。

「せっかく一緒に買いにきたんだから、啓太の良いやつ選んでよ」
「・・・・・・(こ・・・コンドーム)」

真っ赤になって絶句している啓太に、和希は淡々と離し続けた。

「ちなみに、俺がいつも使っているのはコレね。啓太はどお?」
「・・・・和希が好きなので良い・・・・」

混乱する頭で、なんとかそれだけを和希に伝えると、啓太はよろよろと店の外に出た。

(・・・こなきゃよかった・・・)

結局、その日啓太が分かったのは、和希の欲しい物は啓太の為の物以外ないと言う事だった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日、学生会の用事の為に会計部を訪れた啓太は、いつものように勧められたお茶の時間に混じっていた。

「遠藤の欲しい物?」

いつも歯に衣着せる事無く率直に物事を伝えてくれていて、和希の本当の姿も知っている西園寺に、啓太は最後の望みをかけて相談を持ちかけた。

「・・・そんなの、啓太に決まっている」

何を今更とばかりに啓太と目線を会わせる事無く西園寺は言い放った。

「・・・・だからですね。そう言う事じゃなくて・・・俺が言いたいのは形のある物の事なんです」

西園寺の一言に、真っ赤になりながらしどろもどろに啓太は説明を付け足した。その啓太の説明に、西園寺は視線を上げ、啓太に問い返した。

「何故啓太はそんなに物にこだわるんだ?」
「・・・先月の俺の誕生日の時に、和希に貰った物が嬉しかったんです。和希が俺の事考えて選んでくれたんだなって・・・今でもそれを見るとうれしくて・・・だから俺も、何か形のある物があげたいなって思ってるんです」

カップの中の紅茶に視線を落としながら、うっとりと説明する啓太に、会計部の二人は視線を合わせて肩をすくめた。啓太の様子は誰がどう見てものろけている以外の何物でもなかったのである。

「それなら伊藤君。お二人の愛の生活の為の物でも遠藤君に差し上げたらどうですか?」
「 !! ・・・・あっ愛・・・」

更に真っ赤になった啓太の顔をよそに、いつもの笑顔を張り付かせながらとんでもない事を口にした七条に対して、西園寺は淡々と問いかけた。

「・・・具体的にはどのような物をさしているのだ?臣」
「・・・・そうですねえ・・」

腕を組んでしばらく考え込んだ七条は、思い付いたように顔を上げた。

「例えばですけど『コンドーム』とか」

その七条の言葉に、啓太は持っていたカップをソーサーごと床に落とした。

「おや、大丈夫ですか?伊藤君」
何事も無かったかのように平然と、七条は啓太のこぼした紅茶の始末を始めた。

「・・・だが臣。避妊の心配の無い男同士で、必ず着ける物ではないだろう」

そんな西園寺の言葉に、七条は肩眉を上げながら返答した。

「・・・郁。遠藤君の伊藤君への溺愛ぶりを見ていれば判るでしょう?あの人が伊藤君の負担になる様な事をするかどうか。」
「ふむ。確かに。で、どうなんだ?啓太」

いきなり話は啓太に振られ、七条の言葉から立ち直りきっていなかった啓太は返答に困った。いや、よしんば立ち直っていたとしても、自分のセックスライフについて明るい時間から、ましてや和やかにお茶を飲みながら話せる神経は持ち合わせていなかった。

「ど・・・どうって言われても・・・」

動揺している啓太を楽しそうに見つめながら、西園寺は言葉を続けた。

「毎回つけているなら、臣の言った物は良いと思うが・・・着けていないならまた他の物を考えれば良い」
「・・・・・この間、買い足しているのを見ました・・・・」

なおも続く西園寺の言葉に、言わない事にはこの会話は切れないと啓太は察して、ぼそぼそと解答した。

「着けているのならあげれば良いだろう。消耗品なのだ、いずれは使うだろう」
「そうですよ。伊藤君からのプレゼントなら、喜びも倍増でしょうしね」
「・・・・・・・・」

問題解決とばかりに、二人は満面の笑みでカップを口元に運んだ。啓太は何か違うと思いながらも、これ以上、この話題に触れる危険性を感じて押し黙った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

さて、誕生日当日。
その日仕事の入ってしまった和希の帰りを、和希の部屋で、寮長の、家事に置いて寮内で右に出る者無しと讃えられている篠宮に焼いてもらった誕生日ケーキをサイドテーブルに配置し、悩みに悩んだプレゼントをサイドテーブルの下に置いて啓太は待っていた。
消灯時間が目前に迫った頃、がちゃがちゃと部屋のドアが音をたてて開かれ、部屋の主が飛び込んできた。

「悪い。遅くなった」
「いいよ、別に。今日は和希の誕生日だし。いつまでも待ってたよ」
「サンキュ」

走ってきたのか、息の荒い和希に労いの言葉をかけ啓太はテーブルに促す。息を整えながら席に着いた和希に、こっそり持ち込んだ缶ビールを手渡してパシュっと蓋を開けた。

「誕生日おめでとう。和希」
「サンキュ。啓太」

ポクンッと情けない音をたてて缶を合わせる。よほど喉が渇いていたのか、和希は勢いよく缶の中身を喉に流し込んだ。

「・・・・それで、これ。喜んでもらえるか分からないけど・・・プレゼント」

机の下から啓太は一つの包みを取り出し、和希に手渡した。

「・・・ありがと。啓太からのプレゼントなら何でも嬉しいよ・・・開けていい?」
「う、うん」

歯切れが悪いながらも頷く。
和希が包みを開けると、中からは啓太がいつも持っているのと色違いの携帯電話のストラップが出てきた。

「あんまり一緒にいられないからさ。いつも身に着ける物でお揃いもいいかなって・・・。ちょっと女の子っぽいかな」

照れながらプレゼントの説明をする啓太の頬に、和希は音をたててキスをした。

「凄く嬉しいよ。これを見て啓太が傍にいない時もがんばるよ。俺」
「・・・・・それから」
「 ? え?」

机の下からおずおずと出てきた啓太の手には、もう一つ、かわいくラッピングされた包みがあった。

「これは・・・他の人からのお勧めの品だったから・・・おまけ」
「あ・・・そう。俺はこっちだけで十分なのに。でもありがとう。・・・こっちも開けても良い?」

そんな問いかけに、啓太は首を横に振った。

「そっちは俺が帰ってから開けて」
「 ? 何で?早く見たいんだけど・・・」
「絶対ダメ!」

顔を赤くして、あからさまに怪しい素振りを見せる啓太を覗き込む。

「と・・・とりあえずケーキ食べようよ!ちょっと時間経っちゃったから生クリーム限界そうだしっ!」
「・・・・・・開けちゃお」
「だっ!だから今はダメだって!!」

わざとらしい話題の切り替えは、和希の興味をよけいに引いてしまうものだった。啓太は最終手段として和希の手から包みを取りかえした。

「・・・なんだよ。渡しておいて」
「・・・・ゴメン。やっぱりこっちは後から渡す」

なおも赤い顔をして、一度渡した包みを後ろ手に隠し続ける啓太をそのまま放っておく和希では無かった。包みを押さえている為に身動きのとれなくなった啓太に、自分の顔を近付ける。

「な・・・何?」
「それの代わりに、今はこっちを貰っておくよ」
「なっ・・・・・んっ・・・」

深く唇を奪う。執拗に歯列をなぞり、強弱をつけながら啓太の下を吸い上げた。そんな和希のキスに啓太の体からは力が抜けて行く。和希の腕に重みが感じられはじめた頃、和希は啓太の手の中から先ほど取り上げられた包みを奪い返した。

「あ!!和希!!」

啓太は慌てて手を伸ばしたが、既に包みは啓太に背を向けた和希の手によって開けられはじめていた。

「 ? 箱?」
「だっだからやめろって!!」

啓太の言葉を無視してラッピングを取り去ると、そこから出てきたのは・・・・

「・・・・・『う○うす』」

和希が振り返ると、啓太は拗ねるように和希に背を向けて座っていた。

「こっ・・この間、買ってるのっ・・見てっ・・・和希、毎回・・・その・・・着けてくれてるし・・・・ほらっ、二人でスルものだから・・・丁度、いい機会かなって・・・だから!」

しどろもどろに説明を続ける啓太に、和希は胸が熱くなった。いつも自分の方から誘って事に及んでいた為、啓太は自分に付き合ってくれているだけではないかという不安を感じる事もまま合ったのだ。いくら自分達が恋愛感情を通わせている間柄でも、やはり啓太は自分と同じ男で抱かれる事に何の抵抗も無いと言うわけにはいかない事も重々承知していた。逆に、自分が啓太に抱かれる事が出来るかと考えれば、出来ないと答えるであろう所を、啓太は受け入れてくれている。その事だけでも感謝しなければと思っていた所の、行為の為に使う物のプレゼントであった。

「・・・啓太」

酷く優しい声に、啓太の体がビクッと震える。そんな啓太を和希は後ろから優しく抱きしめた。

「本当に嬉しいよ。最高の誕生日プレゼントだよ」
「・・・・うん」

今だに赤い啓太の顔をゆっくりとのけぞらせて、和希は優しく長いキスをした。それは情欲を煽る様なものではなく、和希の啓太への思いの証のようで。
しばらくの間、二人の唇が離れる事は無かった。

「・・・・さあ、そろそろケーキを食べよう。せっかく啓太が用意してくれたケーキを食べないなんて勿体無いよな!」
「・・・・うん!俺、ケーキ切るよ!」

ろうそくが立てられているケーキは、二人のやり取りを待ちきれなかった様に少し、形が崩れはじめていた。だが、ろうそくに灯をともせばなんだか少し、幻想的な雰囲気を煽っている様にも見えて、二人は小さな炎を挟んで笑いあった。

「改めて、おめでとう。和希」
「ありがとう。啓太」

和希が蝋燭の火を噴き消すと、名残惜しむかのようにあたりには微かに白い煙が漂った。
蝋燭を抜いて、啓太がナイフでそっと切り分ける。その様子を終止笑顔で和希は見つめ続けた。

「・・・結構うまいじゃん。啓太、どこで買ってきたの?」
「篠宮さんにだだこねて作ってもらった。篠宮さんのケーキ、前にごちそうになった時凄くおいしかったから」

ケーキを口に運んだ後、その味に満足した様な和希の口振りに先ほどまでの不機嫌そうな顔が嘘のように晴れ渡って、にこやかに啓太は答えた。

「・・・へえ。彼には弓道で許可証送ったの、間違いだったかな?ホント、凄くおいしい」
「だろっ?そこらで買ってくるのなんて目じゃないって」

まるで自分の事のように喜ぶ啓太に、和希は微笑んだ。

「でも、今日は一切れでオシマイ」

和希の言葉に、啓太はきょとんとして「何で?」と問いかけた。

「・・・何でって、この後、やる事あるだろ?」
「え・・・なんか用事あんの?和希」

ケーキを部屋についている小さな冷蔵庫に仕舞いながら、和希は一言「あるだろう」と答えた。そんな和希の言葉を、クエスチョンマークを頭上に浮かべながら啓太は聞いた。

「せっかく啓太がいい物くれたんだから、早速使わなくちゃ・」
「あ・・・・・」

その言葉で、啓太はようやく理解をした。

「こんなに入ってるの、一日で使えるかなぁ」

和希の冗談にしても強烈な言葉に、啓太はぎょっとした。

「なっ!使える分けないだろっ!」
「でも、せっかく啓太が用意してくれたんだし、消費期限切らしたら勿体無いだろ?」
「そんなに早く切れないよっ!」
「せめて半分くらいは使いたいよなあ・」
「和希っ!俺を殺す気かっ!」
「・・・啓太、したくないの?」

言葉とは裏腹に、和希の顔は確信に満ちた笑顔を称えていた。

「う・・・・適度には・・・」
「適度には・・・・何?」

真っ赤になって視線を泳がせている啓太に、不適な笑顔のまま近付く。唇が触れる直前で動きを止めて、和希は啓太に囁いた。

「け・い・た。したくない?」

目の前にある和希の顔から視線をそらしながら、しぶしぶ啓太は答えた。

「・・・・・したい」

啓太のその答えに、和希は満面の笑みを浮かべて啓太に軽く口付けた。

「愛してるよ。啓太」
「・・・・俺だって、和希の事・・・」
「判ってる。もうだまって・・・・」

うつむいていた啓太の顎に指をかけて、そっと上を向かせる。自然と啓太の瞳が閉じられて、和希の唇を受け入れた。

翌日。二人は授業を休んだ。事の真相を知っているのは本人達と、『和希の喜ぶプレゼント』を啓太にアドバイスした会計部の二人だけだった・・・・・。

 

END

・・・お粗末様でした・・・

 

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